川端龍子 鳥獣百科「海鵜・百子図」

東京都大田区にある大田区立龍子記念館で開催された「名作展 鳥獣百科“龍子の描いた生きものたち”」のギャリートークに行ってきました!

今回の“旅すきsite”は、平成30年4月15日に参加した「名作展・鳥獣百科」のギャラリートークの様子と4月28日から開催される「名作展・龍子記念館の逸品」を紹介します!

日本画家 川端龍子

所蔵作品図録より「川端龍子」

川端龍子(かわばた りゅうし)は、明治18年6月6日に和歌山県和歌山市に生まれ、洋画から出発し、近代日本画の巨匠と称される画家です。

大田区立龍子記念館

大田区立龍子記念館

昭和38年に文化勲章受章と龍子自身の喜寿(77歳)を記念して、長年住んだ大田区に独自(社団法人青龍社)で龍子記念館を設立しました。

その後、1991年から大田区に事業を引き継いだそうです。

龍子記念館には大正初期から戦後にかけての約120点あまりを所蔵されています。

ギャラリートーク

龍子記念館 受付

毎月1回(最終週の日曜日13時より)展示されている作品を学芸員の方が解説してくれる「ギャラリートーク」が開催されます。

作品に対する龍子の思い入れや作品から読み取れる感情やメッセージなどを読み解いてくれます。

所蔵作品図録より「獺祭」

今回、名作の解説をして頂いた学芸員の木村拓也さんのお話は、一点一点の作品の魅力を十分に引き出すだけでなく、龍子さんが作品に向かっている時の感情や時代背景などの世界観が伝わり、龍子ワールドにタイムスリップしたような気分にさえなりました。

龍子公園

龍子公園 龍の鱗をイメージした通路

ギャラリートークの後は、龍子さんが設計したアトリエと旧宅(龍子公園)を開館し、龍子さんの「龍」に対するこだわりや来客に対する四季折々のおもてなしの心などを学芸員の方が解説しながら案内してくれました。

ギャラリートーク開催日以外の日でも龍子公園は1日3回(10時・11時・14時)、開館して学芸員の方が解説しながら案内してくれます。

名作展・鳥獣百科

所蔵作品図録より「孫悟空」

川端龍子の作品の構図は何と言っても作品の大きさが特徴です!

所蔵作品図録より「龍宮」

大きい画材にダイナミックな表現力と愛情あふれる筆運びが印象的ですが、今回の動植物を描いた作品はダイナミックな中に龍子さんの優しくて繊細な一面が感じ取れる作品ばかりで穏やかな空間に包まれ笑顔になる作品が多かったです。

四季花鳥図屏風 Wikimedia Commons

日本では中国の影響を受け、桃山時代から江戸時代にかけて「花鳥画」の図柄が繁華していました。

絵画の題材として花、草木、鳥だけでなく、虫、動物、魚を含む図柄を「花鳥画」とまとめ、東洋画題の一つとして日本画のテーマに使用されてきました。

所蔵作品図録より「眠猫」

今回の「鳥獣百科 龍子の描いた生きものたち」は、龍子さんの新たな魅力を引き出す作品が厳選されていて、古代的な花鳥画だけにとどまらず、現代性を反映させた龍子イズムの表現力が楽しめる作品ばかりでした。

龍子作品解説

今回の“旅すきsite作品チョイス”は、龍子記念館に入った時に一番最初に目に飛び込んできた「海鵜」と今回のパンフレットにもなった「百子図」を紹介したいと思います!

龍子記念館の展示室に入ると最初に目に飛び込んでくるの作品の大きさは高さ2m×横幅が7mの筆使いが分かるくらいダイナミックな作品です。

その絵を正面から眺め、優しい眼差しで自作を見つめる等身大の龍子像が私達を迎えてくれます。

この龍子像は、龍子記念館が開館した時に洋画家の鶴田吾郎から龍子に贈られた石膏像だそうです。

海鵜

所蔵作品図録より「海鵜」

今回の作品展で龍子像が眺めていたのは、第35回青龍展の作品である「海鵜」です。

高さ242.4cm×横幅727.2cmというスケールの大きい作品で、龍子が78歳の身体で全力を注いだ作品です。

所蔵作品図録より「海鵜」荒磯の岩に叩きつける波しぶきは、喜寿を迎えた龍子が、まだまだ荒波に立ち向かう威力があることを表現する意気込みを見せるかのように力いっぱい筆を振るっているようにも見える作品です。

鵜飼いの鵜は、日本の風物詩と言っても過言ではない日本画の題材の一つです。

龍子は日本風情ある鵜ではなく、荒波に立ち向かう海鵜のたくましさを描き、生き物たちの生命力を表現しているのではないかと学芸員の木村さんはお話されていました。

所蔵作品図録より「海鵜」

ちなみに、鵜飼の鵜は“川鵜(カワウ)”ではなく、海風に耐えられる強靭な体力を持ち、気性が激しくない “海鵜(ウミウ)”を教育するそうです。

そんなことを意識して鑑賞すると、真ん中で羽を広げている鵜が攻撃的ではなく、岩に上がり羽を広げ日向ぼっこをしている和やかな一面に見えてきました。

百子図

所蔵作品図録より「百子図」

第9回青々会展の作品である「百子図」は龍子が64歳の作品です。

この作品が生まれた背景は、戦後の上野動物園には象がいなくなり、台東区の子供達が「象を贈ってほしい」とインドのネール首相に想像で描いた象の絵を送り、その願いがインドの首相に伝わり、昭和24年にネール首相から念願だった象の「インディラ」が贈られるという夢物語のような出来事だと木村さんは解説してくれました。

インディラはインドから横浜に到着し、横浜から上野公園までお披露目として町を歩いたそうです。

ちなみに「インディラ」の命名は、ネール首相は令嬢のインディラ・ガンジー女史の名前から取ったと台東区史に記載されていました。

所蔵作品図録より「百子図」

象がお披露目で歩きながら上野公園を目指している時に、周りの子供たちが「象が来た!」と喜び、象に寄ってきた一場面ではないかと想像できる作品ですが、なぜか象のインディラの目が鋭く描かれています。

もしかしたら、横浜から上野公園まで見世物になりながら歩かされたからですかね。

百子図に込められた思い

作品の名前になっている「百子図」ですが、通常は百子図というと子孫繁栄の象徴として子供がたくさん描かれた作品に使用されることが多いそうです。

象のインディラを中心に沢山の子どもたちが描かれていることから、ただ可愛い象と子供たち」を描いたのではなく、龍子さんの戦後の復興や平和への願い、子供たちの明るい未来への希望などのメッセージが込められた作品として観賞することができます。

名作展 龍子記念館の逸品

左「草の実」・右「爆弾散華」

次の展示会は、平成30年4月28日~平成30年8月26日まで名作展「ベストセレクション 龍子記念館の逸品」が開催されます!

昨年度、没後満50年を迎え日本画家 川端龍子の注目度が高まり、龍子作品の中で問い合わせが多い作品を中心とした作品が一挙に展示されるそうです。

今回のパンフレットは2パターンあり、雑草を濃紺の地に金泥で描いた「草の実」版(左)が通常デザインのもので、龍子邸の庭に爆弾が落とされた瞬間を飛び散る草花に表した「爆弾散華」版(右)は、龍子記念館と熊谷恒子記念館等で限定配布されているものです。

関連情報:川端龍子 ベストセレクション「虎の間」

爆弾散華

本作品は、時代背景を知らずに鑑賞すると、野菜の周りにアクセントとして金箔や砂子をちりばめられている華麗な草花を題材に描いた作品に思えます。

しかし、この作品の背景には龍子さん自身の辛く悲しい体験と画家の信念が盛り込まれた作品です。

龍子さんの邸宅は終戦2日前に空襲で直撃弾が落とされ、その被害は、母屋が倒壊し、使用人ら2人が亡くなったそうです。

龍子公園 爆弾散華の池

落下された直撃弾は菜園に落ち、育てていた夏野菜が吹き飛ぶ瞬間を描写したものです。

現在は龍子公園に直劇弾の傷跡を利用し、草木が育つ「爆弾散華の池」と名を付け、植物が元気に育つ池になっています。

作品画像について

大田区立龍子記念館 所蔵作品図録

“旅すきsite”サイトで使用した作品画像は、「大田区立龍子記念館 所蔵作品図録」のもので、龍子記念館で販売しています。

サイト内でご紹介した川端龍子の作品は大田区立龍子記念館所蔵の作品です。

大田区立龍子記念館
東京都大田区中央4-2-1