川端龍子 ベストセレクション「草の実」

川端龍子記念館はテーマに合わせた川端龍子作品を常に20点前後が展示されている美術館です!

「旅すき.site」では、月に1度のギャラリートークで学芸員の木村拓也さんが解説して下さった制作時期や当時の龍子さんの心情などを交えながら、龍子作品の魅力をご紹介したいと思います。

今回は川端龍子さんの作品の中で人気の高い作品を一挙に展示されているベストセレクション展から旅すき取材員が選んだ、草木の生命力を描いた屏風姉妹作として知って頂きたい「草の実(くさのみ)」です。

ベストセレクション展:平成30年4月28日(土)~同年8月26日(日)まで

関連情報:川端龍子 ベストセレクション「虎の間」

一番人気の作品

川端龍子生誕130年特別展 展示会チラシ

学芸員の木村拓也さんが草の実の人気が高い理由を教えて下さいました!

龍子さんは、1931年に草の実が制作された、前年に『草炎(そうえん)』を制作されました。

草炎は、東京国立近代美術館に所蔵されており、草炎を観賞された方が魅了され、姉妹作が龍子記念館にあることを知り、出展時期の問い合わせがあるほか、龍子さんのファンの方からの草の実の出展時期の問い合わせも一番多いそうです。

旅すき取材員は、学芸員の木村さんから教えて頂いた草の実の紹介をする前に、姉妹作と言われている草炎について少し調べてみました。

草炎(そうえん)

【公式】東京国立近代美術館広報‏ twitter

作品・草炎は、東京国立近代美術館に所蔵されている屏風作品で、176.8m×369.5mあり、草の実より1年早い1930年(昭和5年)に制作されました。

草炎は龍子さんが45歳の時に第2回青龍展へ出品した作品で、大変高い評判が得られ、皇族であった久邇宮家(くにのみや)らが手に入れたいと望んだ作品と伝えられています。

また、龍子さんは期待に応えるため、草炎を制作した翌年、1931年(昭和6年)に「草の実」を制作しました。

東京国立近代美術館

東京国立近代美術館
東京都千代田区北の丸公園3-1
http://www.momat.go.jp/

場所と画題

草炎が描かれたのは、龍子さんが住んでいた東京都大田区大森で、季節は夏だそうです。

画題は、龍子さんが自宅付近に生えている日常の草花を屏風・六曲一双に描いたものです。

紺紙金字無量義経 Wikimedia Commons

一般的に装飾経(そうしょくきょう)とは、料紙に綺麗な装飾を施したものを指しており、紫、紺などの染紙を使用して、金銀泥で経文を書写したものを言います。

【公式】東京国立近代美術館広報‏ twitter

龍子さんは、平安時代に紺紙金字経として数多く制作されていた装飾経にヒントを得て、知恵と技術を用いて紺色に染めた料紙に金箔やプラチナを細く裁断、粉砕して描いたものです。

弟子・四方田 草炎

四方田 草炎(よもだ そうえん)は、本名は四方田青次郎と言い、日本画家を志し、昭和3年に川端龍子に師事し、雅号(画家の別名)は草炎と言います。

龍子さんが1930年(昭和5年)に第二回青龍展に出品した『草炎』から雅号を授かったそうです。

四方田草炎デッサン集・図録

翌年、第三回青龍展に出品した草炎は「花紅白」で初入選し、その後、合計7回の入選を果たし、近代日本画壇の巨匠である横山大観は、草炎の素描を観て「君は一体どうしてこれが描けたのか、まさしく神の手だ」と歓声をもらしたほど、新進の日本画家として期待されていました。

しかし、昭和13年に青龍社を退社し、生前は著名になることはなく死後、「孤高の素描画家」として評価を得ています。

宮城県美術館
宮城県仙台市青葉区川内元支倉34-1
http://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/

草の実

川端龍子「草の実」葉書

草の実は龍子記念館に所蔵されている作品で、草炎と同じく濃紺の装飾経のスタイルをヒントに着想した作品です。

川端龍子「草の実」葉書(左側)

学芸員さんの木村さんから、全展示室の電気を龍子記念館専用のLED照明に昨年工事が行われ、大きい作品用に考えられた照明になったことにより、龍子作品にとってより良い環境で観賞することができるようになったとの説明がありました。

草の実については、夏から秋への心地良い涼風が吹いて、柔らかいススキや綿毛の揺らぎが感じ取れる作品で、優しい空間が素敵な会場藝術を生み出していると解説して下さいました。

川端龍子「草の実」葉書(右側)

旅すき取材員の視点から秋に移り変わる立秋の頃の少し冷たい風をススキから感じます。

目の前で草木たちが精一杯生きている様子が凛とした茎や葉を金箔で表現することで光を放ち神秘的な世界観を感じました。

少し離れて全体から観賞すると龍子さんが伝えたかった会場藝術の醍醐味が読み取れる作品でした。

草の実の草花

学芸員の木村さんが、草の実の草花を表現するために使用された材料は金箔で、白い部分はプラチナを使用していると解説をしてくださり、優雅に描かれた秋の草木を教えてくれました。

①ススキ(芒)

植物 ススキ

日本には全国に分布し、夏から秋にかけて日当たりの良い山野に生息しています。

茎の先端に長さ20~30cm程度の十数本に分かれた花穂をつけ、穂全体が白っぽくなり、種子には白い毛が生える日本人に馴染み深い植物です。

龍子草苑

龍子記念館の龍子草苑(中庭)にススキ、シダなどの修善寺に咲く草花が植えられており、龍子さんは、自然のままの姿を好んだため、草苑も当初の姿を維持するようにお手入れされているそうです。

②オミナエシ(女郎花)

植物 オミナエシ

オミナエシは、秋の七草の一つで、日当たりの良い草地に8月~10月になると黄色い花を咲かせる多年生です。

短い茎を持つ植物で、地中の根から葉が生えているように見える根出葉(こんせいよう)で、夏までは葉だけを伸ばし、葉はやや固くてシワがあります。

日本では万葉の昔から親しまれており、切花などに用いられてきました。

③タケニグサ(竹似草)

植物 タケニクサ

タケニグサは、日当たりの良い草原や空地に見られるケシ科の多年草です。

夏に咲く花ですが花びらは無く、葉は切れ込みがあり、形は菊の葉に似ており大きいです。

④ヤブカラシ(藪枯らし)

植物 ヤブカラシ

ヤブガラシは、道端や荒れ地に生えるツル植物で多年草です。

根を地中に張り巡らし、どんどん繁茂するヤブカラシは、藪を覆って枯らしてしまうほどの生育の旺盛さを持っています。

濃い緑に溶け込こみ、わずか直径5mm程の小さい花が集まりひっそり咲きます。

関連情報:川端龍子 ベストセレクション「一天護持」

まとめ

学芸員の木村さん曰く、龍子記念館の一番の特徴はガラスケースに入っていない“むき出し”の展示で、他の日本画美術館に無い展示方法だそうです。

前回の「草の実」出展は、2016年の名作展「草が実る・龍子の庭園植物記」以来となり、特注のLED照明で光を拡散させるようになってから初めての出展のため、より多くの方に観賞してもらいたいと話されていました。

川端龍子さんを間近に感じられる会場藝術を堪能できる龍子記念館(美術館)の入館料が200円とは、かなりお得です!

名作展に相応しい草の実は、筆描の技を最高度に示したもので、近づいたり離れたりすることで受ける印象が変化するので、見ていても飽きることがない作品と言えます。

龍子草苑

ぜひ、この機会に草の実に描かれた草花を龍子草苑や龍子公園で探して、植物の生命力のパワーを感じながら、龍子ワールドを満喫してみては如何でしょうか。

龍子公園

「旅すき.site」では、月に一度のギャラリートークに参加できない方にも、龍子作品の魅力を感じ取って頂けるようギャラリートークに参加し、学芸員さんの解説から龍子さんのメッセージを受け取るよう努めています。

大田区 龍子記念館
東京都大田区中央4-2-1
開館時間 9:00~16:30
龍子公園のご案内 10:00、11:00、14:00
ギャラリートーク開催日
6月24日(日)、7月29日(日)、8月26日(日)
各日 13:00~