書壇の第一線で活躍した現代女流かな書家の熊谷恒子の「やまとうたの風趣」ギャラリートークに行ってきました!
今回の“旅すきsite”は、ギャラリートークで学芸員さんが解説してくれた作品から興味深い作品を紹介したいと思います!
熊谷恒子さんは、人生のほとんどを大田区南馬込にある自邸(現・熊谷恒子記念館)で過ごした馬込文士村の一人です。
かな美展
今回は、恒子さんの「やまとうた」をを中心に収集したという趣旨から、展名を「やまとうたの風趣」とし、古今和歌集の序文を書いた“やまとうた”や“ちはやぶる”を含む18点が展示されていました。
やまとうた
和歌と言うと、一形式の韻律に従って、五・七・五・七・七の三十一文字で構成された一定の規律に沿った韻文を指すと思っていました。
しかし、今回のギャラリートークの「やまとうた」を通じて、和歌は韻文だけでなく、反語となる散文(さんぶん)という構成もあることを知りました。
散文とは、五・七・五のような韻律や句法にとらわれず、小説のように自由に書かれたもので、古今和歌集「やまとうた」の冒頭文に登場します。
「やまとうたは人の心を種にして、万の言の葉とぞなりける。」この冒頭文は、古今和歌集に添えられた2篇の序文のうち、仮名で書かれた方の名称で、通常は仮名序(かなじょ)と言われています。
学芸員さんのお話では、古今和歌集の撰者は紀友則(き の とものり)、紀貫之(き の つらゆき)、凡河内躬恒(おおしこうち の みつね)、壬生忠岑(みぶ の ただみね)の歌人4名だったそうです。
撰者の一人だった紀貫之が中心となり、和歌を集めた家集に手を加え、書物の内容をまとめる際に和歌の本質や形式の成立などを解説したことにより、初の歌論として位置づけられました。
学芸員さんのお話では、和歌の大半は、四季の景色を詠む歌が多いが、それは自然の風景を詩文に書き表す叙景詩の表現法ではなく、自己の純粋な感動や情緒を表現する“叙景詩”であると、定義付けていると考えられるそうです。
そのような叙情詩を書く文字として“かな”は発達しました。
熊谷恒子さんのかな書は、平安古筆を基調とした和歌とその歌に秘められている叙情を読み取り墨の濃淡や文字の大小などで意気込みや心情を豊かに表現しているそうです。
ちなみに、旅すきsiteの調べによると、もう一方の序文は紀淑望(き の よしもち)が漢文で書いた真名序(まなじょ)と言うそうです。
散らし書き
師匠であった岡山高蔭(おかやま こういん)から漢字を習い、かな書の技法の“散らし書き”は、恒子さんの独特な特徴ともいえます。
散らし書きは、散らし方に法則は無く、行の頭などを揃えず、また草仮名(万葉がな・ひらがなの原形)や平仮名(現在のひらがな)を混ぜたり、墨の濃淡、筆の太さや細さなどを固定せず、思いのままに散らして書くことです。
関連情報:熊谷恒子 かなの美展「書家・恒子かく」
年代で楽しむ書
下記の2点の作品は、全く同じ和歌の一節ですが、昭和44年(上)と昭和50年(下)に発表されています。
恒子さんの叙情による「ものゝふの」の捉え方によって、かなと漢字の融合と散らし書きや連綿による技法によって、全く違う作品になっていることが分かります。
昭和44年「ものゝふの」
毛のゝふのや所
うち可者農あ
しろ支二いさ
餘ふ奈みの遊久へ
しら春
毛
昭和42年に大東文化大学教授に着任し、同年に勲五等宝冠章を受章してから2年が経過した昭和44年の作品です。
墨の濃淡や筆の太さ、連綿のしなやかさから感じられる作品で、三行目の「し」が伸びやかで、恒子さん自身が書家として勢いがある様子が感じ取れる作品でした。
昭和50年「ものゝふの」
毛のゝふの
や所うち可は農
あしろき二
い佐よふ奈三のゆく
へしら須
毛
昭和45年には日展参与に就任されました。
この作品は、料紙の色柄と筆の流れが一体となった構図で、恒子さんの特徴でもある散らし描きで作られた余白は考え抜かれた余白であることが伺えます。
書を見ると言うより、絵画のような美術品として観賞するに相応しい作品でした。
万葉集「ものみなれは」
もの三奈八あ良
多しき餘志
堂ゝ人者不利尓
し
農三所よ路志
可るへ支店
昭和40年の作品で、恒子さんが70歳の軸の作品です。
学芸員さんは、物は新しい物が良い。ただ人間だけは老人こそが良いに違いない。
3行目以降が恒子さんの気持ちが表現されてのではないかと解釈されていました。
古今和歌集「ちはやぶる」
こちらの作品は、昭和32年の作品です。
この作品は縦24cm×横182cmの巻物のような作品でした。
連綿線(文字と文字を切らずに繋いで書く手法)によって、読む側のストレスがなく、なめらかでありながら、一つ一つの言の葉を紡いでいるように感じました。
“旅すきsite”で使用した作品画像は、「大田区立熊谷恒子記念館 所蔵作品図録」のもので、熊谷恒子記念館で販売しています。
サイト内でご紹介した熊谷恒子の作品は大田区立熊谷恒子記念館所蔵の作品です。
庭園公開
平成30年4月28日から同年5月6日まで「期間限定!庭園公開」として庭園に入ることができました!
庭園には新緑の葉がキラキラしていました。
熊谷邸の庭園には四季折々の樹木が植えられていました。
黒松、赤松、梅、枝垂れ桜、ツツジ、サツキ、モミジ、キンモクセイなど。
梅の木には梅の実がたくさん実っていました。
熊谷恒子記念館の石段付近にはオオムラサキツツジが見事に満開でした。
ギャラリートーク
事前申込みは不要で学芸員が本展出品作を解説して下さいます。
日程:5月 26 日( 土)、 6月 23 日( 土)、7月 28 日(土)、8/25 (土)
時間:13:00から30分程度